皮膚科医いわし

英国在住の皮膚科医のブログです。美容/旅行/料理メイン

イギリスに住んでみて

 

 

はじめに

私の場合はひょんなことからイギリスのケンブリッジ(大学からなるのんびりした田舎町、しかしここにいる限りは不便はないので、日本だと筑波の学術都市が近い)に住むことになったのですが、とりあえず現段階で1年間住んでみての感想を残しておこうと思います。

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ケンブリッジの街

もともと私の場合、日本での職場環境も非常によく、公私共に日本に生まれたことにとても満足していました。したがって日本の社会や労働環境に不満があって、新たな新天地を求めて異国へ、というタイプでもないです。

さらに、夫婦ともに純日本人ですので、どうしてもイギリスでなくてはいけない、ということでこちらに来たわけでもないです。たまたま夫の研究所がこちらにあるから、という理由で居ついたクチです。ちょうど新年も始まりましたし、イギリスと日本、住んでみて思ったことを書き出していこうと思います。

今回は個人的な取り留めもないメモだと思って目を通してください。ちなみに5000字以上あって非常に長いです。

 

 

イギリスに住んで良かったこと

①美しいイギリス文化を堪能できる

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美しいカレッジ

これが最大のメリットです。1年間住んでみて、改めてイギリスって本当に美しい国だなあと思いました。これは旅行やビジネスでの短い滞在では表面的なものに終わってしまうかもしれません。

歴史のある建築物や文化とともに生き、自分がその一部になる感覚というものは、今まで味わったことのない素晴らしい体験でした。言葉で説明するのが難しいのですが、日々何気なく目に入る、美しいカレッジやパンティング(舟遊び)の風景、のんびりと草を喰む牛達、夜に賑わいを見せる老舗のパブ。そのどれもが生き生きと輝き、それらに触れることで日々自身の感性が磨かれていく感覚というものは、何にも変えがたいものでもあります。

 

 

②リラックスできる

私はケンブリッジに来る前には東京に住んでいたのですが、朝のラッシュとか、駅のなんとなく尖った雰囲気とか、モノや人から発せられる切迫したような苛立ちは日本、こと東京で顕著なものかもしれません。

イギリスにはそのような雰囲気があまりありません。そもそもロンドン含めて公共交通機関がそれほど過密にならないこともありますが、その他の面でも東京に比べれば皆んなのんびりしています。もちろんそれによる弊害は私のような日本人にとっては看過できないこともありますが、少なくとも他人やモノにイライラしている人は少ないです。

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ゆっくりと流れる時間

電車がちょっと遅れちゃってもいいじゃない、子供が騒いでもいいじゃない、手伝ってあげるよ etc. 社会のルールを破らない限りはとにかく寛容な文化です。日本にいる時に当たり前だと思っていた、暗黙の了解という縛りが緩いので、『人に迷惑をかけないようにしなければ』というような独特の緊張感がありません。電車の中でも普通に音楽をガンガン流しますし、電話で喋るのを咎める人はいません。そういう環境で過ごしていると、自分が今まで日本で培っていた、他人に迷惑をかけないように心がけてきたことが、自分が勝手に設定していた縛りだったのだと気付かされます。

昨今の感染症の流行は各国民の気質をより顕在化しているようで、イギリスでは日本ほど『自粛警察』なるものを聞きません。『私が我慢しているんだから、あなたも我慢しなさい』と、『私が我慢しているのは、私自身と家族を守りたいから』とはかなり意味合いが違ってきます。いい意味で、私と他人がはっきり区別されており、他人を気にしないのは自身の心のゆとりにつながるようです。

  

 

③客観的に日本を見られる

これはイギリスにいるから良いこと、ではないのですが、日本を離れて自分の生まれ育った国を客観的に見ることができるようになりました。よく、『欧米なら〜なのに、これだから日本は〜』という声をネットではよく聞きますが、実際に住んでみて、そうでもないけどなあと感じることが多くなってきました。

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住んでみると意外にギャップがある

あと、イギリスの大半は田舎

例えば、日本でも共働きが一般的になっていて、『女性の負担が増している!』というような声を聞きます。なので、イギリスに来る前には、イギリス人の男性はさぞ家事育児に参加するんだろうな、と思っていたのですが、実はそうでもないです。やっぱり家事育児の中心は女性であることに変わりはないです。

というか、家事にかける時間が日本より圧倒的に少ないだけなんですよね。食事も外食含めて、火を通した食事は1日に1回くらい、ご飯は簡単に、日中子供は基本的に外に預ける、などなど。日本人女性の家事負担が大きいと言われているのは、パートナー男性が忙しくて家事育児に参加できない、というものもあるのかもしれませんが、どちらかというと、日本人の家事要求レベルが高いだけなようです。これも前述した、自分が勝手に設定した縛りに苦しめられているという観点で捉えることも出来るのかもしれません。

そして女性の家事育児問題だけではなく、日本の税金や社会保障制度についても、『いやいや、欧米もそんなに良くはないよ、むしろ日本の方がまだマシ』と、日本を客観的に捉えられるようになったのは大きいかな、と思います。やっぱりここでも、日本人の要求するレベルが高いのが不満の元なのでは...と思うことが多いです。つまりは、良い意味で欧米諸国に間違った桃源郷を見出さなくなりました。

 

 

まとめ

自分の中の小さな世界が少し広がったのも良いことですが、まあ要するにメンタルの面でとっても健全に過ごすことができています、ということです。こういう精神論的な部分って住んでみないとわかりにくいところではありますが、すごく大事な部分じゃないかなあと思います。

 

 

 

 

次は逆に悪かった点についてです。

イギリスに住んで悪かったこと

①飯がマズい

私の場合はこれが最大のデメリットです。日本と比較して圧倒的に飯がマズく、何より高いです。『最近のイギリスのご飯は美味しいよ〜』なんていうのも聞きますが、あれってロンドンのしかも結構お高いレストランの話です。日本と同じクオリティのものを食べようとすると、そもそも値段が1.5〜2倍はしますし、まともなレストランとなるとさらにとんでもない値段です。イギリス内で比較的安価で美味しいとされるインド料理や中華、アジア料理でも、例えばパッタイ一人前は2000円くらいします。

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イギリスのカップラーメンはなんか違う

あと、これも個人的な感想なのですが、在英期間が長くなると舌が鈍麻してきます。私自身は一年でも強く実感しました。イギリスは日本と比べて使用できる化学調味料の品目が圧倒的に少ないですし、塩分量もかなり控えめです。料理が冷めたものが出てきてもあまり気にしませんし、調理法も少ないので食感や食べ物のテクスチャーにもこだわりません。そういう食文化の元で食事をしていると、人間の舌って急速に鈍麻していくみたいです。その証拠に、たまーに日本から仕入れた袋ラーメンとか、ちょっとお高めな調味料を使うと、濃厚な塩味や化学調味料の強烈な旨味にびっくりします(脳が驚くと言う表現はあながち冗談でもなく、あれは麻薬の摂取反応に近いのかも笑)。

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イギリス料理でマシなものの一つ

フィッシュアンドチップス

そんなわけで、イギリスの飯がマズい問題は私にとっては非常に辛い点です。一方、夫は食べられれば何でもいいという種類の人間(毎日3食ケンタッキーチキンでも平気)なので、ここはかなり個人差がある部分でもありますが。

したがって以上のことから、大前提はロンドンに住んでいること、かつ有り余る財力がある場合を除いて、イギリスでまともなものを毎日3食食べるのはかなり大変です。

 

 

②健康でないと厳しい

これもネックになっている部分です。イギリスに限らず、日本以外の大抵の国でこれは実感される方が多いと思います。よく、移住に必要な条件、とか向いている人そうでない人、というのを耳にしますが、大前提は健康であることではないでしょうか。

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実際にイギリス人は運動大好き

これは私の渡英時期にも大きく関与していることかもしれません。私がイギリスに住み始めたのは2020年1月からで、ちょうどその少し後からコロナウイルス感染症が少しずつ流行ってきました。日本と比較すると、もともとイギリスの医療体制は脆弱で煩雑です。シンプルな点があるとすれば、『お金持ちは十分な医療を受けることができます、貧乏人はちょっと待ってな』な部分がはっきりとしているという点です。ある意味イギリスを含めた欧米諸国の格差社会の凝縮体と思ってもいいかもしれません。

イギリスには国民が無料で医療サービスを受けられる機関があるのですが、無料なだけあって制限がかかっており、サービスに登録してから1〜2ヶ月初診まで待つことが普通です。(風邪の診察ですら2,3週かかることも)もしすぐにサービスを受けたい場合にはプライベートな医療機関を自費で払うことになります。しかし医療機関ごとに自由に値段設定をすることができるので、技量も値段もピンキリです。したがって日本のように一律の値段で、安定した医療サービスを受けることは制度上不可能です。

特に昨今のような、比較的足の速い感染症が流行した際には、素早い適切な医療へのアクセスが求められます。先に述べたような医療体制に慣れているイギリス国民の気質として、ちょっと具合悪いくらいなら我慢しよう、どうせすぐには診てもらえないしね、と思うのは当然です。医療機関としても、電話相談は受けてみたけど....うーん、自信ないけどまあ大丈夫そうだよね。ちょっと待ってもらおう、というような意識が文化的な背景としてあるのだと思います。

その結果イギリスでは、医療機関の受診や受診後の処置が遅くなり、重傷者の増加が異常に早くなりました。(まあそもそも日常の清潔操作がきちんとできていないことも問題なのだけど)そういう意味ではイギリスの医療制度ってコロナと相性が悪かったなと思います。

長くなりましたが、今回の例をとっても、日本と比較するとイギリスの医療アクセスは良くありません。以上のような理由から、この国で末長く健康に住むにはある程度の資本が必要だな、と強く感じました。

 

 

まとめ

以上悪かった点についてでした。良かった点よりもだいぶ生活感のある話題になりました。

飯がマズい問題は個人の気持ちの持ちようなのですが、医療制度については時期的にもかなり考えさせられました。その他にも、郵便や役所、住宅事情などへの不満もありますが、その根底にはやはり②で述べたような、『お金持ちはいいサービスを受けることができます、貧乏人はちょっと待ってな』の精神が反映されているので、ただの愚痴になって面白くないので割愛します。もし需要があるのなら、その他についてもいつか書いていきたいと思います。

いずれにしても、格差社会の存在を日本にいるときよりも強く感じることが多くなりました。

 

 

そのほか雑多なこと

取り止めもないものですがこちらも。メモ程度に思ってください。

差別問題

渡英前にちょっと心配していたことの一つ。結論から言うと、ケンブリッジにビジターとして住む限り差別にあうことはまずない。ケンブリッジに住んでいるアジア人は大学関係者がほとんどで、『ある程度身分が保証されているアジア人』の扱いになるのがその理由。ただし、ケンブリッジ大学内部でも、学部からの学生間では多少差別がある様子。それはイギリスに『お客さま』として来ているわけではなく、対等なクラスメイトとして認知された上で直面する問題なのでレアケース。学部入るくらいのバイタリティーがあれば気にならないそうで。

ちなみにロンドンでは普通に生活していく上でも理不尽な差別がある。ロンドンは移民が半数以上をしめる多民族都市なので、イギリス人がレイシストという意味では全くない。どちらかというと移民間の差別が問題なので反撃の隙あらばやり返すべし。

 

 

駐妻アイデンティティ喪失問題

私はオンライン上で仕事や資産運用をしているのですが、それでもたまに考える問題。遠い異国の地で収入が減り、子供もいないのに家族に扶養されるというのは精神的にくる。何よりも患者さんに接する仕事が好きなので臨床が恋しいが、感染症が流行し正直それどころではない。しかしかと言って、他の同じ境遇のもの同士が集まって何か楽しいことをしたところで、なんとなく日々感じる物足りなさというものは変わらないし、質の異なるもので埋め合わせができるとは考えられない。贅沢な悩みだが、去勢された室内犬の気分である。

 

 

体重増加問題

イギリスのハイカロリーな食材やロックダウンが相まって体重が3キロ増える。この国でヘルシーで美味しいものは極端に少なく、自炊していても普通に太る。豆腐やこんにゃく、キノコが恋しい。

 

 

 総括

以上、イギリスにとりあえず1年間住んでみた時点での感想でした。もし将来的にイギリスに来ることをお考えの方や、すでに長く住まれている方、日本に骨を埋める所存の方など、色々な方が読まれる可能性のある場で申し訳ないのですが、あくまで個人の感想です。取り止めのない話題になりましたが、来年見返してみるのも面白そうなので残しておきます。