皮膚科医いわし

英国在住の皮膚科医のブログです。美容/旅行/料理メイン

医学生の生活あれこれ

医学部ってどんな感じでしたか

最近『医学部ってどんな感じでしたか』という質問を受けることが多いです。たしかに、他の学部の学生生活ってなんだかミステリアスですものね。

うちは単科大学で学内が医療系の学生ばかりだったこともあり、今までそういう話題にならなかったのですが、国を越えてイギリスに来たり、ネットで色々な方と交流を持つようになってきて、改めて『ちょっと変わっていたかも....』と思うようなこともあったので紹介したいと思います。

そういえば私も、藝大出身の友人の学生生活の話が面白くて、『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』と言う本を夢中で読んだのを思い出しました。

 もともと『ハチミツとクローバー』という美大を舞台にした漫画が大好きで、芸術を扱う大学に対しての憧れもあったのですが、漫画で語られるよりもリアルな部分が面白かったのを覚えています。(大学卒業後の異常な数の失踪者数にも衝撃を受けました笑)そういえばその話を聞かせてくれた彼も卒後に司法試験を受けて、今は弁護士をしていますし、やはり思うところがあったようです。

今回は私の学生生活についてなので、どう叩いても美大ほど面白い話は出ないのですが、もし興味のある方は読んでみてください。

 

 

大まかな特徴

①入学してすぐにまた予備校生活

医学部の進級に必要になるのは、必須単位(絶対に取らないと進級できない単位)が大半で、選択科目、というものがほとんどありませんでした。あったのは一年生時の『ドイツ・フランス・中国語』と、受験の時に使わなかった理系科目1つ『物理・化学(生物はあったかな?)』くらいだったと思います。自由度が非常に少ないガチガチのカリキュラムが組まれているのが特徴です。

スケジュールも、基本的に朝の9時くらいから16時くらいまで全講義に強制出席でした。なので教室移動というものがほとんどなくて、クラスメイト(全部で100人くらい)はもちろんのこと、席も固定で常に私物で溢れかえっていました、非常に汚いです。 

ここからして他学部の人からみると変な感じらしいです。講義の空いてる時間にランチやバイトを入れる、ということもありませんし、講義のない日、というのがそもそもありませんでした。みんな一様に同じ目的を持って、同じ勉強をする、という点では予備校みたいなイメージです。まあ確かに、医学部自体が医師になるための予備校と言えるので納得です。

 

②独自の進化を遂げる学部ガラパゴス化

これは語ると長くなるので他の記事に載せたのですが、医学部って特殊な慣習が多いんですよね。一学年の人数が60〜100人前後しかいないので、いついかなる時も一緒のメンバーですし、人間関係がとんでもなく濃密になります。そしてそんなコミュニティ生活内ではご多分に漏れず、内部では非常に独特な発酵が起こります。これはかなり香ばしい内容になるので別の記事にまとめました。

⬇️気になる方はこちらの記事で

www.iwashikarikari.com

 

 

②実習がやたら多い

他の学部に比べて圧倒的に実習が多いです。2年生の解剖学、5年生の院内実習がメインですが、この時期以外でも座学がなくなり、立って手を動かしている(実は頭はあまり動かしていない笑)期間が長いのが特徴です。

解剖学は4〜5人のチームを組み、1人のご遺体を数ヶ月かけて解剖していきます。(このご遺体は生前のご本人の意思での会合学実習へのご提供で、初めての実習でご遺体と向き合ったときの、あの非常に身の引き締まる思いは今でも鮮明に思い出します)

5年生時の病院実習はポリクリとも呼ばれますが、大体全部の科を1年とちょっとかけて満遍なくローテーションしていきます。ここでもチームが3〜8人くらいと決まっています。これもけっこう長く、かつ香ばしい内容になりそうなのでそのうち他の記事にまとめたいと思います。

ちなみに看護は3年制と4年制の学校がありますが、やはりロングタームで実習があるので、割合でいったら看護の方が実習は多いです。なのでこれは医療系に共通の特徴でもありますね。ちなみに看護の実習は医学科に比較できないくらい上下関係や課題(私たちはそもそもこれがなかった)が多いので、かなーり大変です。看護の同期はみんなげっそりとしていて、本当に体重もかなり落ちている子が多かったです。。。

 

③卒論がない

これも他学と比べると特徴的なことなのですが、卒業論文の作成というものがありません。医学科には6年生最後のバレンタインデーあたりに医師国家試験があるのですが、それまでに卒業できるかどうかが決まり、国家試験に合格したらそれで終了です。卒業のために何か書く、ということがなく、6年間培ってきた学力(今振り返るとかなり大げさですが)のみが卒業試験で重視されます。なので、早い人だと5年生くらいで卒業試験の合格ラインに達していますが、実習が必須なので飛び級が絶対にないのも特徴です。

 

④国家試験がある(ひたすら暗記)

卒論の代わりと言ってはなんですが、先ほど述べました国家試験があることが最大の特徴です。これも医療系全般に言えることですが。

ぶっちゃけ医学部自体が医師になるための予備校のようなものなので、よほどのことがない限り落ちません。今年の医師国家試験も合格率は92%ほどですし、私の時も偏差値30いかなければ余裕、といった風潮がありました。

なので試験に向けてちゃんと勉強はするのですが、受験勉強の時とどっちが本気で勉強したかと言われれば断然大学受験です。国家試験は基本的に暗記がほとんどなので、医学部はある意味究極の文系、と言われるのはここれへんから来ている気がします。暗記科目でかつ大学受験よりは易し、となると、そもそも個人の基本的なスペック不足が原因で『どう頑張っても絶対に受からない!』ということはあり得ません。医師国家試験は『努力は裏切らない』を体現しているとも言える公正な試験です。

 

 ⑤国試に合格できなければただの人(闇深)

この部分が一番闇が深いです。卒業はできても国家試験に合格できなければただの医学に詳しい人です。6年間医者になるためだけに勉強してきたので、正直その後の修正がききません。よく、日本の医学部ではなくて、代わりに中国やルーマニアの医学部に行きました、と言うのも聞きますが、あれを含めて医学部はけっこう闇が深いです(そしてその顛末は総じて悲惨な場合が多い、もちろん素晴らしい方もいるので誤解のないように)

ちなみに国家試験に1回落ちたとしても、次の年でほとんどの人が受かっているので、国家試験に落ち続けて結局医師になれませんでした...と言う人は、実はものすごく少ないのです。が、人数が多ければごく稀にそんな人が出てきます。当然新卒ではないレアケースなので就職活動もしにくいです。そのまま社会生活に溶け込めずに、日本ではないどこかにあるのかもしれない夢を探して海外逃亡...と言うような話も聞きます。

あまり語られることのない部分ですが、闇金ウシジマくんもびっくりな深淵深い闇が広がっています。ヘタに大学受験に失敗するよりもはるかに手痛いです。ティーンの挫折はまだなんとか持ち直せますが、ある程度自分の生き方にプライドも出てくるアラサーになると、この時期の失敗は厳しいです....特に日本社会では。そんなわけで国家試験の時期はみんなちゃんと勉強します。

 

 まとめ

以上、医学生の生活と医学部のちょっと変わった面について紹介しました。美大や医療系の学部など、ちょっと特殊な学部の話を聞いていると面白いことが多いので、今回の話が参考になればと思います。まだまだ引き出しがあるので、また面白いことを思い出したら紹介していきたいと思います。